日本画の画材

 日本画の画材は、中国大陸や朝鮮半島から日本に伝わりました。日本書紀には、「十八年春三月高麗王貢上僧磁徴法定昼徴知五経且能作彩色及紙墨井造硯磋蓋造磯確始干是時敬」という記述があり、 推古天皇18年(西暦610年)の春に僧・曇徴は、五経に通じるとともに絵具や紙墨を作り、さらには、石臼も作ったとあります。

 製造道具などの基礎技術を含め絵具・紙墨が伝えられ、それ以前からの伝播・技術もふくめ、千数百年つづく材料素材を軸に、古代・中世・近世と時代の変化はさまざまな絵画表現を生み、作品が作られました。

 明治以降の西欧化とともに、それら絵画は日本画と呼ばれ、日展などで多くの作家により時代に即した作品が作られています。
 日本画の画材は優秀な職人・名工に支えられ伝承され、現在は主に日本画画材店で専門家用の絵画材料として扱われており一般に馴染みが薄いものもあり、主だった画材を簡単に紹介します。

主に竹などの軸に羊・狸・いたちなど動物の毛の長所を利用し、書道用の筆とともに、画筆が作られてきました。広く塗る刷毛、連筆、絵具の彩色のための彩色筆、絵具をぼかす暈し筆、筆先の利く削用筆、細い線を引く面相筆などたくさんの筆が作られ、それらを中心に使い作画されています。

絵具など

天然の鉱物・土などを粉砕し、使いやすく細かい粒子、租い粒子などに分けて作られた粉〈顔料〉を糊である〈膠〉と混ぜて絵具とし使われてきました。また、古代の中国、錬丹術での人造の朱の発明なども様々に使われました。近代以降の無機化学、有機化学から作り出される顔料も江戸時代であれば長崎から輸入されるなどして使われてきました。

昭和30年ごろから、無機化学、有機化学の成果を応用する形でガラス質の人造岩絵具、染め付ける方法での合成岩絵具などが多数製造され、多くの粗さの段階とともに豊富に作られ使われています。また、近年は、コーティングして作られる人造岩絵具など多彩な広がりがあります。一方、微粒子の絵具で貝殻から作られる胡粉、土や人造の微粒子絵具としての水干絵具、泥絵具、金属の箔や粉〈金泥・銀泥など〉が作家により選択され使われています。

中国にはじまった墨の歴史は、石墨などを磨り演すことからはじまり、松の木〈松煙墨〉や植物の油〈油煙墨〉を燃やし煤をとり、膠で練り作る製墨が現代に受け継がれ、日本画においても、黒色の材料として大切に使われています。

紙・絹

絵画では、紙や絹・板などのことを基底材と呼びます。2メートル×3メートルに近いような大きく丈夫な和紙が昭和になって作られ、その他さまざまな産地の和紙とともに基底材として使われています。
紙に描かれた絵を「紙本彩色」、絹に描かれた絵を「絹本彩色」とも言います。

膠(にかわ)

岩絵具、顔料の粉を基底材に接着させる糊として日本画では伝統的に膠を使ってきました。ゼラチンと同じような成分で、棒状・粒状の乾燥した形で一般に市販され使われています。膠は、岩絵具の表面をあまり覆うことなく接着するため、光が散乱しやすい表面を作ります。近年、樹脂などでの接着剤が日本画の画材店で扱われ、利用している作家もおります。

現在、作家は、日本画の画材を中心に、作家によっては、洋画の画材も含め様々な画材・材料・素材を目指す表現のために種々選択し、作品を模索しています。