第五科 書

西田 健にしだ たけし

特選

藤浪

65×172

受賞理由

 仮名の美の三大要素、連綿・余白・墨色の美を大字仮名の世界にも遺憾なく発揮させた秀作。加えて行の揺らぎ、粗密繁簡の妙、立体感など、徹底した刻意を基としながらも、計算を超えた自然な筆致が見る者を魅了する。

作家のことば

 雨のために誰にも見られず終わってしまう美しい藤浪、若葉の生い茂る場所に聞こえるどこか寂しげな蛙の声。日本の美意識「侘び寂び」。作品で自分が表現したいこともこの世界観に通じます。作為のみで、何百枚も書いてしまいましたが、最後は技術だけではなく、心に少しでも味わいが残せるようにと念じて書きました。

〈釈文〉雨ふれば人も見にこず藤浪の
花のながぶさいたづらに咲く
こもりくの谷の若葉のしげり深み
蛙ころなく声さびしらに